最果てでもお約束。
最前線?崖っぷち?
お気に入りのハイカットスニーカーの踵っていうか踝までのびたソレを素足でぐしゃっと潰して駆け出す。
もしあのバイクをパクられちゃったりなんかすると、仕事場まで延々毎朝1時間も歩いて行かないといけなくなるからあーんどその他もろもろ困るからだ。つーかみんな困るでしょ!?
古くボロボロになった鉄筋の階段を2段飛ばしでまるで転げるように下りていく。あぁ、何か思い出しそうになったけれど今は・・・それどころじゃない。
難なく一階まで辿り着き、後は一見ゴミにしか見えない道具を掻い潜って表に出れば・・・「あ」・・・・忘れてた。
忘れ物は二つ。この町で生きていくには必須である”携帯”と、もしあの窃盗容疑者がなんらかの武力行使をしてきた場合当然とらなければならない自衛に必要な”武器”。
当方暴力は大変苦手であります。えぇ、最近の小学生にも負けそうな貧弱男なのでした。ちなみに、先ほどの「あ」から今までの思考時間は0.1秒にもならず、その間も足は全速力で目的地に向かっているわけで・・・・つまりはまぁ・・・不本意ながら・・・
「ん?」
ばっちりなんの考えも無く相対してしまったのでした。
「お・・・・おはよう」
まだバイクに跨ったままの人物は、首だけをこちらに向けて不思議そうに目を丸くしている。猫を思わせるような大きな瞳、耳が丁度隠れる程に伸びたサラサラな髪、小さいバイクに跨ってなお小さいその体は一見にして「あ、ガチンコでも倒せそう」などと思わせ、挨拶なんてしちゃったよ。
「おはよ、これ・・・あんたの?」
やたらとハスキーな声で挨拶を返し、首を返してバイクを見やる。背中丸出し。襲いかかるなら今が絶好のチャンスなんだけれど・・・いきなりしかけていいんでしょうか?
「いいねぇ、こんなのあったらオレはびゅーんとどっかいっちゃいそうだよ」
言いながら振り返ったその顔は、まだ幼さの残る完璧な無邪気さを持った笑顔。
襲いかかる気力-100。
「それ時速30kmが限界だから・・・」
あまりにも眩しい笑顔に当てられ、自分が人見知りをする方だと思い出しうつむき加減で弱弱しく言う自分。かっこ悪い。
「そんなの・・・・かんけーないねー」
んーっと背伸びをして快晴の空を仰ぐ謎の人。つーか・・
「いや、降りてくれないかな・・・」
まだ窃盗容疑者である事には変わりなかった。
< 7 / 140 >

この作品をシェア

pagetop