平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
「だってもう誕生日が嬉しいっていう年じゃないし。ごめん、そんなに怒らないでよ」
「怒ってるんじゃないです。気の利かない自分が情けなくって――。ちょっとコンビニに行ってきます。ケーキくらいはあるかもしれないしっ! プレゼントは……少し待ってください。絶対に用意しますから」

いまにもドアを突き破って飛び出しそうなほど勢い込んで立ち上がった礼子の腰に、晃は長い腕を回して引き留めた。

「こんな時間に女の子の一人歩きなんてさせられないよ。ケーキはまた今度にしよう。この日本酒には合わないと思わない?」

「でも」と後ろを振り仰いだ礼子の唇を、晃のそれが言葉ごと塞ぐ。一瞬だけ触れ合った自分の唇に、晃はペロリと舌を一周させ満足そうに口角を上げた。

「甘いものは、これで十分」

そう首筋に顔を埋めて囁けば、面白いくらいに触れた場所から赤みが広がっていく。

「じゃ、じゃあ、プレゼントはなにがいいですか? あんまり高いものは無理だけど」

真っ赤に染まる耳裏に触れる唇の感触に速まる鼓動をごまかすような礼子の早口の問いに、晃は少し考えてから、顔を動かさずに答えを出した。

「目覚まし時計がいいな。確実に起きられるヤツ」

後れ毛を揺らす吐息がくすぐったかったのか、僅かに身動ぎしながらも礼子は必死に考える。

「ええっと、音が大きいのがいいですか? アナログとデジタル、どっちが好み? そうだ。駅員さんが使ってるとかいう、マットが膨らむのなんてどうですか!? 高いのかなぁ」

礼子が傍らにあったスマホを操作しようと伸ばした手を、晃がやんわりと制止する。

「そんなことにお金を使わなくっていいよ」
「だけど……」

眉を八の字に下げた礼子の肩をくるりと回して、晃は自分と正対させた。そうするとカウンターチェアに座ったままの晃とは、彼女と目線が同じくらいになる。
コツンとおでこ同士をぶつけると、甘やかに弧を描く眼が艶やかな色を帯びていく。

「とりあえず明日、見送りの時間に寝坊しないようにお願いしようかな。枕元にずっと置いておいても、いい?」

味醂のような艶のある甘さに意識を捉えられた礼子が、うっとりと小さくひとつ頷いた。


 ―― 後日談 完 ――
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