君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨

 だってそれには、入江さんの本当の気持ちが書かれている。

 それを読みさえすれば、ご両親は知るはずだ。

 自分たちが間違っていたって。

 自分たちが信じていたことと、入江さんの本当の世界は違っていたんだって、気がつくはずだ。

 ……気づいたからって、どこにも救いはないけれど。

 本当に、なんて救いのない話だと心底思う。

 人と人って、ここまですれ違うの?

 同じ事柄を見ていながら、ここまで絶望的に、見えているものや感じていることが違ってしまうものなの?

 この世界って、いったい、なんなんだろう?

 人によって、こんなに世界は違ってしまう。

 そして存在する人の数だけ、世界も存在する。

 まったく異なるそんな世界のひとつひとつと、あたしたちは嫌でも関わり合わなければ、生きていけないなんて。

 なんて……恐ろしいんだろう。

「見せてどうなるんですか?」

 ノートが折れてしまいそうなほど、ギュッと胸に抱きしめながら中尾さんはつぶやいた。

「見せたって、あの人たちが言うセリフなんか想像つくでしょう?」

 あたしは即座に思った。

 そうだ。こんな場合にお決まりの、こんな言葉が返ってくるだけ。

『どうしてもっと早く言わなかったのか。言ってくれさえすれば』

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