君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
「亜里沙、これで拭いて」
「いいよ。大丈夫」
「大丈夫じゃないよ。髪も顔も濡れちゃってるよ」
「まーねー。だってあたしは水もしたたるイイ女だもーん」
亜里沙がアハハッと、いつもの明るい顔と声で笑い飛ばしながらハンカチを受け取った。
その笑い声と一緒に、ちょっとだけ心のモヤモヤも一緒に飛ばされた気になれて、少し気分が軽くなる。
凱斗は機嫌が悪いのか、ずっと黙りこくって歩いているけれど、歩くスピードはずいぶんゆっくり。
たぶん、あたしたちの歩調に合わせてくれているんだと思う。
いつもの優しい凱斗に戻ってくれたみたい。よかった……。
そんな風に安心していたら、ふと、あのメモ用紙のことを思い出してしまった。
『入江小花が自殺したのは、あんたと、凱斗先輩のせいだ』
あたしの心がまた、この頭上の空のようにズシリと重々しく暗くなる。
一歩前を歩く、背の高い凱斗の背中を心細い気持ちでそっと見つめた。
教室や、廊下や、校庭や体育館で、ずっと去年から見つめ続けてきた、この背中。
前を向く凱斗は、いつも笑顔だって確信できた。だからあたしは、いつだって幸せだった。
でもいま、青い傘の下で前を向く彼の顔は、どんな表情をしているんだろう。