諸々の法は影と像の如し
第八章
 このところ、貴族が物の怪に襲われる、という事件が頻発している。
 当然陰陽寮にはその手の報告が毎日入る。
 専門機関とはいえ、人でない物の怪には簡単に対応できるわけもなく、震えあがった貴族から乞われて屋敷に泊まり込んで祈祷を行うのがせいぜいなところなのだが。

「怖いなぁ。こんなときなのに、宮様は参拝を取り止めになさらないのか」

 賀茂社の参道を歩きながら、章親がぼやく。
 そのすぐ後ろを歩いていた魔﨡が、肩に担いだ錫杖を、しゃらんと鳴らせた。

「心配するでない。我に倒せぬものなど、そうないぞ」

「何とも心強いお言葉、ありがとうございます」

 ちょっと微妙な顔で、章親は不敵に笑う魔﨡を見た。
 章親の肩の上の毛玉も小さくなっている。

「でもさ。今度の物の怪は肉食だっていうもの。殺された人は身体を食われてたって聞くしさ。そんな恐ろしい物の怪、初めてだよ」

 人に害為す物の怪も多いが、陰陽寮に持ち込まれる物の怪絡みの事件というのは、大抵が人に憑いた物の怪の祓いや悪霊退治である。
 実際に人を殺して食う物の怪など、文献で出てくる程度で実際に見たことなどない。
 お話の類だと思っていた。
< 102 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop