諸々の法は影と像の如し

 惟道は橋の下にいた。
 下といっても橋脚の上部に張り付いていたので、章親が川を覗き込んでもわからなかっただろう。

 そのまま章親が森のほうへ駆け去っていくのを確認した後、惟道は橋脚を伝って河原に降りた。
 そのまま道には上がらず、河原を歩いて川を遡っていく。

 賀茂川は糺の森のすぐ横を流れている。
 森の入り口には検非違使らがびっしり詰めているが、川にまでは配置していない。

 そんなところから入り込む者などいないからだ。
 相手は物の怪なのだから、どこから現れるかわかったものではないのだが。

 森のすぐ近くまで来た惟道は、しゃがみ込んで腰に挟んでいた小刀を抜いた。
 袖をまくり、いつかと同じように腕に刃を当てる。

 今回は以前森でやったよりもたくさんの血が必要だ。
 少し強く押し当てて引くと、すぐに赤い血が流れだした。

 足元の小石の上に垂らし、その汚れた小石をいくつか掴む。
 石に惟道の血を付けただけでは道を開くだけだ。
 そこに獲物がなければ意味がない。

 宮がいそうなところは人が多い。
 そこにいくつか投げ込めば、誰かに当たるだろう。

 宮自身が襲われなくても、実際に皆の前に人食い鬼が現れれば大混乱になる。
 隙が出来れば、また新たな機会もあろう。
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