諸々の法は影と像の如し
「……さすがは陰陽師の使役する最強の式神。俺の穢れも効かなんだか」

 不意に、若者の口角が上がった。
 その瞬間、章親は背に冷水を浴びせられたような気がした。

 何が変わったわけでもない。
 なのに、かつてこんな恐怖を味わったことがあろうか。
 目の前の若者を、章親ははっきりと『怖い』と思った。

「この屋敷を訪ねて来たのであれば、どうぞ」

 そう言って、若者は踵を返した。
 あっさりと中に招かれたことに、ちょっと守道と章親は顔を見合わせた。

「……どうする」

「中に入って、大丈夫かな」

 二人でしばし相談し、屋敷を見る。
 注意して視てみても、特に結界らしきものは張られていないようだ。

 が、章親らが入った途端に張る、ということもあり得る。
 祖父と互角に戦った術師であれば、章親や守道は太刀打ちできないかもしれない。

「警戒しておられるか。少なくとも、道仙はさしたる力もない」

 門の前で、若者が言った。
 ちょっと驚き、二人は若者を見た。

 先程若者は、この屋敷の主が道仙だと言った。
 ならばこの若者の主でもあるはずだ。

 それを呼び捨てにし、且つ酷評した。
 一体この若者は何者なのだろう。

「とりあえず、ここまで来たんだ。奴が鬼に絡んでいるのもはっきりしてる。行ってみようじゃないか」

 肚を決めたように言い、守道は若者に歩み寄った。
 一応門を潜るときに、護符を門柱に貼り付けておく。
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