諸々の法は影と像の如し

 その少し前。
 蘆屋屋敷では、道仙が苛々と惟道の前を歩き回っていた。

「逃げられたと申すのか」

 あからさまに不機嫌に、部屋の中を行ったり来たりしながら、簀子に控える惟道に言う。
 惟道は平伏したまま、先程からずっと道仙の小言を聞いている。

「ちゃんと酒に血を混ぜたのであろうな? 怖気づいて止めたりはしなかったか?」

 惟道がなかなか姿を現さないことに、ただでさえ苛々していた道仙が、もう何回と口にしてきた呟きを吐く。

 今までしくじったことはない。
 道仙が屋敷に招いた者やそのお付きの者に、惟道が穢れ入りの酒を飲ませる。
 その後は放っておけば、鬼がその者を始末してくれる。

 あとは惟道が後始末をし、道仙に首尾を報告する。
 もっとも一切のことは惟道が行うので、道仙は的が誰かを指示するだけだが。

 鬼も、道仙は見たこともない。
 下手に近くにいると恐ろしいからだ。
< 253 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop