諸々の法は影と像の如し
「だからこそ、召喚で強い御魂(みたま)を呼び出せれば、章親だってぐんと頭角を現せるってなもんだぜ」

「強い御魂は欲しいけど、悪霊とかが召喚されることもあるっていうし。この前の召喚の儀で、おっそろしい悪霊を召還しちゃったっていうのも聞いたよ」

「ああ、昭信様だろ。うん、あれは失敗だったな」

「昭信様、悪霊に食われたって聞いたし」

「食われてはないよ。召喚者には絶対服従だしな。まぁ、ただ直接害せないだけで、言うことを聞かないことはあるけど。昭信様も、あれ以来ずっと伏してるしなぁ」

 強い御魂を召還しても、それを御せないと駄目なのだ。
 御魂は召喚者の言うことには基本的には逆らえないが、召喚者が御せずに御魂が暴れまわることは出来る。

 そうなると主である召喚者の責任となる。
 事と次第によっては、重い刑罰が下ることもあり得るのだ。

「強くて優しくて従順な御魂なんて、そうそういないでしょ? だったら僕は式でいいよ」

 章親は大人しい。
 いつも人の後ろでひっそりしている。
 大した力もない章親には、安倍の姓は重荷だった。

「そんなことでどうする! あれだけ難解な呪文を諳んじられる章親が、何の力ないわけないだろ」

 そう言うと、守道は手早く書物を棚に直していった。

「丁度いい。これから六条邸で、祓いの儀式を頼まれてるんだ。章親も来い」

「え! やだよ。あそこはただでさえ怖いもの」

「だから! 何かあったら、意地でも自分を守ろうとするだろ」

「そんなの嫌だよ。何かする前に、悪霊に食われちゃうよ」

「いよいよとなったら、俺が助けてやるよ」

 嫌がる章親を引きずり、守道はさっさと書庫を出て行った。
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