諸々の法は影と像の如し
第二十六章
 随分と空気が冷たくなったある日。
 章親は自室で脇息に寄りかかってぼんやりしていた。
 そこに、ぱたぱたと楓が走ってくる。

「どうしたの」

 脇息から身を起こすと同時に、簀子に守道が姿を見せた。

「どうだ、調子は」

「うん、大分戻って来たよ」

 蘆屋屋敷での鬼退治から、ひと月ほど経っていた。
 肩に大怪我を負った上に雨に打たれ、風邪を引いた章親は、あの後しばらく高熱にうなされ枕も上がらなかった。
 ようやく熱も下がり、身体を起こすことが出来るようになったところだ。

「そりゃあ良かった。お前が寝込んでる間、御魂はお前の傍を離れないしなぁ。そもそもお前を降ろすのだって大変だったんだぜ」

 蘆屋屋敷から安倍の屋敷まで、魔﨡の背に乗って帰って来たのだが、その道中で章親は気を失ってしまった。
 凄い勢いのまま屋敷に降りようとする魔﨡を宥めすかして屋敷に影響ないように降ろすのは至難の業だった。

 何せ魔﨡は章親の言うことしか聞かないし、何よりその章親の容体が思わしくないのだ。
 焦るあまり、龍のままの勢いで屋敷に突っ込みそうになる。
 それを守道が、一生懸命説き伏せて、屋敷を壊すことなく魔﨡を降ろしたのだ。

 守道は楓が用意した円座に座ると、懐から巻物を取り出した。

「ようやくこれを読み解いたぜ」

 ぱら、と章親の前に、巻物を広げる。
 道仙が最後に持っていたものだ。
 古いものらしく、ところどころ虫食いもあり、さらに道仙の血に汚れている。
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