狂気の王と永遠の愛(接吻)を~イベント編~
(アオイ姫どこに行ったの……)

人間に戻る方法を探しアレスを訪ねたが、彼のよこしたまじないのカードは本当に単なるまじないのカードだった。

『あれはお二人が素直になれる様、私が願を掛けたものだったのですが……』

原因もわからぬまま、ただ時が過ぎるのを待つしかなかった二人は気晴らしに森へと出かけたのだが、ふと目を離した隙に彼女の姿が見えなくなってしまった。

そして姫君の姿が見えない悠久の城ではちょっとした騒ぎになりつつあり、いよいよ誤魔化すには難しくなってきてしまった。


昼過ぎの森を風のように駆け抜ける白銀の人型聖獣の表情には焦りが見える。
彼の俊足ともなれば森の隅から隅までを探すのは容易だが、明らかに途絶えている匂いが不安を掻き立てた。


――ザッ……


心地良い日の光と風が漂う森に似つかわしくない"死神"が子猫を抱いて立っている。
それはまるで木々の影に溶け込むような装いで、気配を消されては見つけることさえ不可能といっても過言ではない。

『ダルドさまっ……!』

「…………」

物言わぬ青年が静かに子猫を地へと下ろすと、人型聖獣の後を追って一目散に走り出した。

『待って! ダルドさま!!』

「……!」

風に流れて自分の名を呼ぶ声を聞いた彼の耳がピクリと動いた。

『アオイ姫?』

ダルドが振り返った先では草むらに隠れてしまいそうなほど小さな背丈の子猫が息を切らしてこちらに向かってくるのが見えた。

『どこにいたの、探したよ』

『ごめんなさいダルドさまっ……』

感動の再会を果たした二人はきつく抱き合い、ほっと安堵のため息を零す。
すると鼻先をかすめた何かに首を傾げるダルド。

『……これ、どうしたの?』

ゆるりと結ばれた黒いリボンと、その内側に挿し入れられた愛らしい一輪の花。
それは飼い猫であるという主張によく似ていて、誰が結んだかもわからないそれに激しい嫌悪感を抱く。

『あ……、迷った先で面倒をみて下さった方に頂いて……』

部屋を連れ出してもらう際、貰った花を首元に挿してもらったアオイは恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。

『……もういらないよね』

『……っ、……』

なかなか首を縦に振れないアオイを見て、ダルドは有無を言わずにリボンへ手をかける。
それは簡単に紐解かれるはずだったが……

『…………?』

ググッと力を込めても解ける素振りを一切見せない。
ならば……と鋭利な爪で千切ってしまおうとアオイに迫った――。
< 181 / 241 >

この作品をシェア

pagetop