狂気の王と永遠の愛(接吻)を~イベント編~

眠れない夜

――ガチャ、……パタン――

 しばしの静寂を破り、体を清めた部屋の主が再び姿を現す。

「…………」

(静かだな……)

 室内の灯りはそのままだが、扉の音に反応がない。

(アオイはもう眠ったか……)

 すこしの寂しさを覚えながらも彼女に避けられているような気がしてならなかったキュリオは、気を利かせていつもより長めの時を湯殿で過ごし戻ってきた。

(様子がおかしかったのは疲れだけではない。やはり私が原因なのだろう……)

 首に掛けたタオルごと濡れた髪をかき上げ、バスローブの紐を締める。
 それから部屋の隅に置かれた燭台をまわり、娘の安眠の邪魔にならぬよう少しずつ部屋の灯りを落としていくと……

「おかえりなさい、お父様……」

 弱々しい声が背後からかかり、振り向いた先では教科書を広げたアオイがソファの上で横たわっているのが見えた。

「……まだ眠っていなかったのかい?」

 娘の身を案じたキュリオは綺麗な眉間へ皺を寄せ、コンパスの広い足で近づいてくる。

「は、はい……」

 恐る恐る言葉を返しながらも、アオイはすぐそこに迫る神がかりな美を誇るキュリオから目が離せない。
 さらに少し視線を下げれば、肌蹴たバスローブから見え隠れする長い下肢が、光と影のコントラストでしなやかな筋肉を浮き彫りにさせるとアオイの喉が苦しそうに異音を奏でる。

(……っ! 計算式、計算式……え、えーっと……)

 ガバッと飛び起きて正座したアオイはなんとか冷静さを取り戻そうと再び教科書へと視線を這わせるが、まったく頭に入ってこない。

 そんな異変に気づくことなく、アオイへ体を密着させながらソファへ腰掛けるキュリオ。
 そしてすぐさま彼は流れるような動作で教科書を取り上げたかと思うと、今度はソファの背の頭頂部へ肘を預け、責めるような視線と言葉を投げつけてきた。

「……なぜ?」

「邪念が……っ、じゃなくて、目が冴えちゃって……」



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