狂気の王と永遠の愛(接吻)を～イベント編～

叶えたい夢…

「うん？　どうかしたかい？」

　いつのまにかボートを漕ぐキュリオの膝で眠ってしまっていたらしいアオイ。
　穏やかに揺れるそのリズムに眠気が誘われてもしょうがない。彼女は慣れぬスイーツ作りと緊張から明らかに疲労していたからだ。

「……あれ……？」

　アオイはｷｮﾛｷｮﾛとあたりを見回してみるが、水の精霊の姿はどこにもなく自分の服も濡れていない。

(……いまのは、夢？)

　しかし、口の中に残るほんのりと甘いチョコの後味がキュリオと過ごした幸せな時間が現実であることを意味している。

「夢を見ていたようだね」

「あ……」

　頬に掛かる髪を梳いてくれたキュリオの手がとても優しく心地よい。

「……そうみたいです。なんだかおかしな夢で……」

(そうだよね、お父様があんなこと言うわけ……)

”幼児体型の抜けきらない丸い腹には夢が詰まってる、もっと太らせて男を遠ざける”

ことが作戦などとキュリオがそんなこと考えているはずがない。

「近くに私の館がある。そこでゆっくり昼食をとりながら、おかしな夢の話を聞かせてもらおうか」

「はいっ」

(まだあまりお腹はすいていないけれど、せっかくお父様が時間をあけて下さったんだもの)

　微笑み合うふたりの姿をひとりの女性が遠くから見つめている。そして彼女はキュリオの言葉を思い出し、静かに笑った。

"見た目でひとを判断するような者に真実の愛を見つけることなど不可能だ。私は彼女がどんな姿であろうとも永遠に愛し続ける"


(……悠久の王が愛する幼い姫君……)


(この湖が一度だけ枯れたあの日、現れた赤子があんなに大きく……)


『……その身に詰まった愛を、どうかおふたりで必ず叶えて下さいませ……』


　そう言うと悲しそうに目を閉じた彼女。
　もしかしたらこの水の精霊は何か知っているのかもしれない。


　それもそのはず――


　アオイがこの悠久に生まれ出たあの日、もっとも近くで一部始終を目にしていたのはこのウンディーネだったからだ――。


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