生チョコレートの魔法が解ける前に
 今なら想いが届かない心の痛みがよくわかるよ、大輝。

「そんなにその子からチョコがほしかったんだね」

 私が言うと、大輝が机に突っ伏した。

「うん。でも、その子の友達にその子と『連名で義理チョコあげるからね~』って言われてさぁ。俺は本命じゃないんだって思い知らされたんだ」
「そっかぁ……。大輝、モテそうなのにね」
「好きな子に好かれなきゃ、どれだけモテても意味ないし」
「池田さんにチョコをもらっても?」
「池田さんのも誰のも本命チョコは受け取ってねーよ」
「そうなんだ」

 それは驚きだ。そのくらいその子のことが好きなんだ……。

 いいな、その子がうらやましい。

「かわいそうなやつめ。仕方がないから私のチョコを分けてしんぜよう」

 胸の痛みを押し隠して冗談っぽく言ったら、大輝がチラッと顔を上げた。

「有純も本命の男に受け取ってもらえなかったんだよな。かわいそうなやつめ。仕方がないから俺が食ってしんぜよう」
「マネするな」
「いいだろー。お互い様じゃないか」
「まあね」

 私はふぅっと息を吐いて、生チョコの箱を大輝の目の前に押しやった。こんな形で食べてほしいわけじゃなかった。私の本命は大輝なんだとわかって、そして受け止めて食べてほしかった。

 でも、大輝のために買ったんだから、こんな形でも食べてもらえたなら、私の恋心も少しは救われるだろう。
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