29歳、処女。
LESSON 2
LESSON 2

Fashion







「おい、雛子! こっちだ!」



おしゃれなスペインバルに入店したとたん、奥のほうから遠慮も配慮もない大声で私を呼ぶ声。


私は慌てて、その声の持ち主のほうへ、足早に向かった。



「ちょっと、喜多嶋さん………声、大きいですよ」



喜多嶋さんの向かいの席に腰をおろしながら、私はこそこそと言った。


案の定、店じゅうの人たちがこちらに視線を向けていて、居心地が悪いったらありゃしない。



「遅いぞ、雛子! お前のせいで待ちくたびれて、そりゃ声も大きくなるってもんだよ」



私のいたたたまれなさになど気づく様子もなく、喜多嶋さんはむすっと腕を組みながら、不機嫌そうに言う。



「ったく、先輩を待たせるなんて、いい度胸してるな。ビールでいいか?」


「あっ、はい」


「すみませーん、注文いいですか」



喜多嶋さんは私にかまうことなく、手をあげて店員を呼び、ちゃきちゃきと注文を済ませた。



「あの、お待たせしてしまって、申し訳ありませんでした」



店員が去ってから、私はテーブルに両手をついて頭をさげ、喜多嶋さんに謝罪をする。


いつものように叱られる前に謝れたので、きっと褒めてもらえるだろう、と思ったんだけど。




< 14 / 97 >

この作品をシェア

pagetop