29歳、処女。
LESSON 3
LESSON 3

Hair Style







ふんわりと甘くて優しい香りが鼻腔をくすぐり、私はふっと瞼を開いた。



ぼやけた視界が少しずつ焦点を結んでいく。


しばらくして見えてきたのは、白い天井。

それから、風に揺れるカーテン。



「もう朝か………」



呟いて何度か瞬きをしてから、あることに気がついて、私は慌ててがばっと起き上がった。


ここは、私の部屋じゃない。

見たこともない家具ばかりの、知らない部屋だ。


しかも、今は朝でもない。

窓の外の陽射しに少しオレンジ色が混じっているから、たぶん夕方に近い時間帯。



寝ぼけた頭を最大限フル回転させて、現状を把握しようと試みる。



私は今、簡素なシングルベッドに寝ている。

シンプルな無地の青いカバーがついた、ふかふかの羽毛布団。

清潔な白いシーツ。


床はダークブラウンのフローリングで、窓にはコバルトブルーのカーテン。

窓辺には観葉植物の鉢。


ベッドの対角線上にデスクが一つあって、その上にはノートパソコンが一台。


デスクの左側に出入り口のドアがあって、細く開いている。

その隙間から、カチャカチャと食器の触れあう音と、さっき嗅いだ甘い香り。



「………ここ、どこ?」



とにかく、どう考えても、知らない部屋だ。




< 44 / 97 >

この作品をシェア

pagetop