時涙ー携帯が繋ぐ奇跡ー
時涙
半兵衛が戦に行ってから何日経っただろうか。
あれからずっと連絡はない。
戦ってこんなに長引くものなんだろうか…。

会いたい、話したい。
携帯を無くした当初は、あんなにも半兵衛からの電話が怖くて仕方が無かったのに、今はこんなことを思っているだなんて何だか不思議だ。
(半兵衛…連絡するの忘れてる?とか、ないよね…?)
そう思っても、今戦が終わっているのか、まだ戦中なのか分からないので下手に連絡できない。
まだ連絡がないってことは、戦中と言うことだろう。半兵衛に限って、忘れているなんてこと有り得ない。
不安で一杯になってしまった自分に、そう言い聞かせる。

けど、寝る前に好きだと言った時に、好きだと返してくれなかったのも、私から連絡しないで欲しいと言っていたのも…、本当は、私の恋愛ごっこに付き合ってくれていただけなのかもしれない…。
前に好きだと言ってくれたのも、本当は…。

一度嫌な考えが浮かんでしまうと、次から次へと嫌な考えしか出てこなくなってしまう。
(一回だけなら…、電話しても…。)あまりの不安に携帯電話へと手を伸ばす。
こんなのはただの我が儘だ。そう分かっていても、この不安を打ち消したかった。
携帯電話を耳に当てると、呼び出し音が鳴り響く。
だが、半兵衛は電話に出なかった。
結局、私は不安を抱えたまま学校へと向かうことになった。
半兵衛との連絡が取れない今、半兵衛を信じて待っているしかない。

授業中も勉強の内容なんて頭に入らなかった。
窓の外をボーッと眺めて、半兵衛は今何をしてるんだろう?とか考えたくらいだ。
受験生だって言うのに、全然授業を受ける気になれなかった。
今日一日中そんな調子だったからか、帰りのHRが終わった後、担任に呼び出されて説教をされた。
正直、今はそんなことを言われたって何も感じないのだが。

担任の長々しい説教が終わった後、いつも通り学校へは残らずに帰路をトボトボと歩く。
(すっかり半兵衛のいる生活に慣れちゃったんだなぁ…。)
前に二人でこの道を歩いた事を思い出す。
半兵衛が指差した液晶テレビが、未だに売れずに残っていた。
(また今度、半兵衛が現代に来た時には色んなところ案内しよう。)
そんなことを考えていると、いつの間にか家の近くまで歩いてきていた。考え事をしていると、家に着くのも早く感じる。

ガチャッと家の玄関を開けると、やっぱり親は仕事で家に居なかった。
得にすることも無いので、自分の部屋に入ってごろ寝をしていると、ふと机上にある何かに気が付いた。

「あ、れ?これって…。」
机上にあったのは私の携帯。正確には"無くしたはずの携帯"なのだが。
(どうして此処に…?)
この携帯は半兵衛が持っているはずなのに、何故ここにあるのか…。
突然戻ってきた携帯を片手に、暫しの間固まる。
なんで?とか、どうして?とか、聞くまでもない。本当は、この携帯が私の手元に戻ってきた理由を、何と無く分かっている。

"持ち主が居なくなったから。"

その言葉が私の脳内を支配する。
「嘘だよ…。だって半兵衛は…」
"姉川の戦い"だって…、言っていたのに…。
「死んでない…!半兵衛は死んでなんかない!」
戻ってきた携帯でどうにか半兵衛と通じる方法はないかと、色々な機能を使って試みる。だが、何の機能で試したところで、普通の携帯電話のままだった。
もう半兵衛とは通じないのだろうか…。そう絶望した時、未送信メールボックスに一件だけメールが保存されていることに気付いた。
最後の希望を胸に抱いて、そのメールを開く。

やはり、差出人は半兵衛。宛先は私のアドレスになっている。
記されていた内容は、私に半兵衛の死を認めさせるには十分なものだった。


茜、きっとこれが最後の連絡になると思います。
だから、茜に沢山感謝している事を、今伝えます。
突然だけど、僕のことを好きだって言ってくれてありがとう。そして、楽しい思い出をありがとう。
今回の戦で僕は死んでしまうと思うけど、茜には僕達の時代よりも遥か未来で生きて、幸せになってほしい。
茜は可愛いからすぐに旦那さんだって出来るし、子供だって可愛い子が生まれると思います。僕は光になって、茜とその家族をいつまでも見守っていたい。
けど、もし僕が生まれ変われて、茜を見付けちゃったら…僕が茜をお嫁さんにしちゃおうかな、なんて思ったりします。
でも、僕が茜を見付けられないような馬鹿に生まれ変わってたら、その時は、他の人と幸せになってください。
これが僕の茜への最後の願い。
今まで本当にありがとう、茜。


メールの内容を全て読み終わった時、涙がボロボロと溢れた。
思い切り声を上げて泣きたいのに、あまりの悲しさと悔しさに声が出ない。
私は、半兵衛が知ったらショックだと思うようなことを全て隠しきったつもりだった。
けど、半兵衛は自分の死を知っていた。
何かあったら半兵衛を助けたい、力になりたいと思った。それなのに、結局力になれなかった。

半兵衛がたった一人で、死の準備をしていることに気付けず、そのまま送り出してしまったのだ。
私は所詮、現代人だった。
「…ッはんべぇ…!」
出ない声を振り絞り、一番愛しい人の名前を呼ぶ。
そして、半兵衛が持っていた携帯を、代わりに強く握りしめた。









一度目の死は、肉体の死。
二度目の死は、その人の存在が記憶の中から消えてしまうことを言うのなら、私はずっと半兵衛を忘れない。
貴方に二度目の死を迎えさせないために。







ねぇ、半兵衛。
私も半兵衛を探すから、きっとまた会えるよ。
だって、こんな不思議な出来事で繋がった私達は、きっと強い運命で結ばれているはずだから。





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