逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

 もしかして、神尾が一ヶ月前に秘書をして欲しいとやってきたのも、全部この日のためだったのだろうか。

 真面目に働いていたつもりなのにまんまと騙された沙耶だが、もちろん神尾に怒る気にはならなかった。


(やっぱり私、神尾さんにはお世話になりっぱなしかも……。)


 そして今後も彼には、基共々なにかと頭が上がらない予感がした。


 やがて、開け放たれたドアの奥から、室内管弦楽団の奏でるワルツが聞こえ始める。基たちがなかなか戻ってこないので、とりあえずダンスの時間になったらしい。


 基はそこで恭しく、手を差し出した。


「沙耶、俺と踊ってくれますか」
「……喜んで」


 今日の靴はマノロ・ブラニクだ。
 好きなように、踊って走れる。


 差し出された手を取り、二人は華やかな天空の間に向かって、足を踏み出しながら、顔を近づけた。


 見つめ合えば、その瞳の中にお互いが映る距離まで。




【逆境シンデレラ〜ガラスの靴では走れない〜】完結


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