『N』ー忍びで候うー
「あなたにはフレッシュなフルーツジュースがいいですかね。」

「一花は?今ここにいなかった?」
コーヒーの香りに混じって、一花の匂いがかすかにした気がした。
なのに、一花の姿はそこになかった。
首を傾げる。
テーブルにはコーヒーカップもグラスも1つも出ていない。

不思議に思った。
いつもあんなに飲み物やら勧めてくれる六車が何も出していないなんて。

「みんなで何してたの?」
3人を見比べる。

「これからお茶するところだよ。」
郷太が口元を上げた。
でもその微笑には騙されない。

「コーヒーもちょうど淹れたところですからね。」
六車の優しそうな微笑みも、だめだめ。

あたしは的を絞った。
「さてと、あたしはそろそろ行くよ。」
「おばあちゃま、今からお茶するんじゃないの?」
「あら、そうだったかしら?ほら、着信があったのよ。ちょっと電話してくるわね。」
「ここでして。あっ!」












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