人魚花
「憐れな花、だわ」

数刻前、蛸に言われた言葉を反芻する。

仲間を失って、孤独のなかそれを取り戻す決心をしたはずなのに。

あろうことか敵に心を乱されて、縋ろうとして本来の目的を忘れかけ。

利用しようと近付いてきた相手に、愚かにも心を開いて。

身の程もわきまえず、人魚という存在に好意を寄せ。

──そのことに、今更になって気付くなんて。

初めて、仲間を失った時も、自分が必死に祈らなかったことを後悔した。

今、また、同じように後悔を繰り返している。

いつの間にか、入り江の入口は完璧に閉ざされていた。

(それでもこれが、きっと正しいはずだわ)

ぼんやりと、僅かな波すら遮断された静かすぎる入り江の様相を眺めながら、彼女はそう結論を出した。

今までがおかしかった。人魚と私が出会うはずなんてなかった。こうやって遮断してしまえば、もう関わることなんてないはずだ。あるべき場所に、戻っただけなのだ。

きっとあの人魚が<彼女>自身に未練があるはずはない。入り江を閉ざしてしまって、これ以上排除することも騙して利用することも出来ないとわかれば、すぐに諦めて、忘れてしまうのだろう。そうでなければ困る。
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