『それは、大人の事情。』【完】
怒鳴られているのに、なぜか心地よかった。
この八年、私はずっと佑月に怒鳴られっぱなしだった。その度に喧嘩になったりしたけど、結局離れなれなくて、ずっと一緒に居た。
「佑月、もう一軒行こ!」
「何バカな事言ってんの? 酔っ払いは帰んなさい!」
「えぇ~ヤダ。まだ飲もうよ~」
「明日も仕事でしょ。とっとと帰って寝る! いいね?」
私の誘いを無視してタクシーを止めた佑月が、運転手に行先を伝えてる。そして、私が乗った後部座席に首を突っ込み「お互い後悔しない人生にしようね」って言ったんだ。
「私は、梢恵がどんな選択しても、アンタの味方だから」
「……佑月」
「今度会うのは私の結婚式だね。じゃあ、おやすみ」
走り出したタクシーの窓に顔を押し付け、小さくなる佑月の姿をずっと見つめていた。
佑月のバカ。そんな事言われたら、せっかく諦めようとした気持ちが揺らぐじゃない。でも、有難う。そんな事言ってくれるのは佑月だけだよ。
それでもやっぱり、私が人生を共にするのは真司さんなんだよ。佑月が言った様に、私は怖いのかもしれない。何もかも捨て白石蓮の胸に飛び込む勇気がない臆病者なんだ……
酔ってぼんやりしている頭でそんな事を考えながらスマホを取り出し、真司さんにラインを送る。これ以上、白石蓮のことを考えたくなかったから。
【もう寝てる?】
返信がくるなんて、はなから思ってなかった。だって、タクシーのデジタル時計は、AM2:30。寝てるに決まってる。