『それは、大人の事情。』【完】

―――でも、すぐ【起きてるよ】って返事が返ってきた。


うそ……まさか、私の帰りを待って起きててくれたの?


【ごめん、今タクシーに乗ったとこ。もうすぐ帰るから先に寝てろ】


わわっ! 酔っぱらってる上に焦って送信したから"寝てろ"になってるし……


すると真司さんが普段使わない【(笑)】って文字が現れる。そして【寝てろって何? 俺のとこに来るの?】というメッセージが表示された。


はぁ? 真司さん寝ぼけてるの? そう思った直後に画面に現れたメッセージを見て、一気に酔いが醒めた。


【俺、蓮だけど】


寝ぼけてるのは私の方だった。私がラインを送ったのは、真司さんではなく白石蓮だったんだ。


白石蓮に間違えたと伝えるが、彼はそれをスルー。全く関係ないメッセージを送ってくる。


【さっき、ウトウトしてる時に梢恵さんの夢見たんだよ。突然梢恵さんが俺の家に来る夢。もしかして、正夢とか?】

【今何時だと思ってるの? こんな時間に行くワケないでしょ!】

【そっかー、でも、梢恵さんからラインきて嬉しかった】


あ……


"嬉しかった"という文字を見て「私も……」って呟いていた。愛しさが溢れ胸がキュンとする。でもそれを彼に伝える事は出来ない。


そのもどかしさと遣る瀬無さが切なさに変わり、彼に会いたいと叫びたくなる。気持ちが高ぶり、いっそのこと、彼のアパートへ行ってしまおうか……そう思った時、ラインの着信音が静かな車内に響いた。


【部長さん起きて待ってるかもしれないよ。早く帰ってあげなきゃね。おやすみ】


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