『それは、大人の事情。』【完】
平静を装い関心なさげに言うが、佑月は諦めない。
「梢恵、アンタまだ、あの子の事が好きなんじゃない?」
「な、もういい加減にしてよ。私はもう蓮の事なんてなんとも想ってないんだから」
心の中で疼き出した古傷がパックリと口を開け、激しい痛みが体中を駆け巡る。
本当は、蓮の事一日たりとも忘れた事はなかった。愛しい気持ちは今も変わらない。でも、それを口にする事は許されないから……
「私は、そうは思えないんだけどな……」
佑月ったら、どうしたんだろう。今まで蓮の事は口にしなかったのに……
「クドいよ!」と一喝すると、佑月は何を思ったか、蓮が今でも私の事が好きだったらどうする? なんて聞いてくる。
「あり得ないでしょ? それは、理央ちゃんに話しを聞いてる佑月が一番分かっている事じゃない」
「分かってるから聞いてるんじゃない」
「えっ?」
すると佑月は、真剣な顔で私を凝視し、テーブルの上に一通の封筒を置いた。
「これは?」
「梢恵宛の手紙……私が帰ったら読んで」
「手紙って、誰から?」
立ち上がった佑月が「読めば分かるよ」と言って意味深な笑みを浮かべる。
「ちょっと、もう帰っちゃうの?」
「うん、妊娠してから眠くって……帰って昼寝する」
「はぁ? 何それ?」
佑月の方から誘っておいて、すぐに帰っちゃうってどういう事よ?
「梢恵、ここに来るの久しぶりなんでしょ? オーナーと積もる話しもあるんじゃない? ゆっくりしてきなさいよ。じゃあね」