『それは、大人の事情。』【完】

言われるまま顔を上げると《Close》のプレートの上に、このカフェの店名《resume》という文字が目に入る。


「梢恵ちゃんは、このカフェの店名の意味……知ってる?」


店名の意味? そんなの考えた事もなかった。


「レジューム……その意味は、確か、新たな始まり……再始動?」

「そう、この店名のせいかどうかは分からないんだけどね。ウチの店、若い娘達の間で囁かれてる都市伝説があるんだよ」

「都市伝説? そんなのあったんだ」

「《resume》の都市伝説はね、雨の日にこのカフェに来ると、別れた人とまた付き合う事が出来る――ここは、再会のカフェ……

でもね、条件が揃っても、お互いが相手の事を本当に愛していなければダメなんだって」

「あ……」


私と蓮は顔を見合わせ驚きを隠せない。


「それって、まるで俺と梢恵さんの事じゃない」

「そうだね」


私達はここで出会い、ここで別れ、そしてここでまた巡り合った。その都市伝説……本当なのかもしれない。


なんだか凄く感動して熱いモノが込み上げてくる。


「俺達が出会うのは運命だったんだよ」

「運命か……蓮が私を撮りたいって言ってくれたのも運命だったのかもね。これからも、素敵な写真いっぱい撮ってね」


蓮の手を強く握り微笑むと、なぜか神妙な顔で私をジッと見る。


「父さんに言われた。お前はもう人物は撮るなって……」

「えっ? なぜ?」



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