『それは、大人の事情。』【完】

「うぅん、もう慣れたから平気だよ」


ほんの数ヵ月前まで常連客しか来なかった静かなカフェは、オーナーの白石さん夫婦二人だけでひっそりと営まれていた。


「正直困惑してるんだ。ここまでお客さんが増えると僕達二人じゃとても追いつかなくて……」

「じゃあ、アルバイト雇ったら?」

「うん、一応、募集はしてるんだけどね。なかなか来てくれる人がいなくて……それで、甥っ子に手伝ってもらおうと思ってさ」


三十代半ばのマスターにそんな大きな甥っ子がいたなんて初耳だ。


「甥っ子って、いくつなの?」


私がそう聞いたのと同時にカフェのドアが開き、一人の若い男の子が入って来て店内を見渡す。そして、その視線はゆっくりカウンターに向けられた。


自然と彼と目が合い私達は数秒間見つめ合っていた。一瞬の出来事だったのに、それはまるでスローモーションみたいにとても長く感じられたんだ。


綺麗な子―――それが彼に対する私の第一印象。


「よう、来たか!」


白石さんの声に、まさかこの子が甥っ子なのと目を丸くした。だって彼は……


少しウェーブがかかった艶のあるダークブラウンの髪に、透ける様な白い肌。そして薄いブルーの瞳。その端正な顔立ちは、どう見ても日本人には見えなかったから。


「梢恵ちゃん、驚いた?実はね、この子は僕の姉の子で父親はイギリス人なんだ」

「じゃあ、ハーフ?」

「そう、今年二十歳になる白石蓮(しらいし れん)だよ」


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