『それは、大人の事情。』【完】
白石……?オーナーのお姉さんの子供なのに、同じ白石って苗字なんだ……
そう心の中で呟くと、その声が聞こえたかの様に、白石蓮が「俺の両親は離婚してるから」って無邪気に笑う。
なんて爽やかな笑顔なんだろう。まだ少し幼さが残るもののイケメンには違いない。でも、十歳も年下の坊やに恋愛感情を抱く程、私は男に不自由してないから……
「そう……じゃあ、アルバイト頑張ってね」
カップに残っていたシナモンティーを飲み干すと、オーナーに軽く頭を下げてカフェを後にした。そして、マンションまで続く長い坂道を上り出す。
坂を上りきり、ようやく自宅マンションが視界に入った時だった。バックの中でスマホが鳴り出す。立ち止まってディスプレイを確認すると意外な人物の名前が表示されいた。
「えっ……部長?」
それは昨夜、私を抱いた神矢真司(かみや しんじ)からの電話。
通話ボタンに触れるのを躊躇ってる自分がいる。だって、今までセフレとして付き合ってきた男達は、休日は本命の女(ひと)と会うから電話なんてしてこなかったもの……
鳴り続ける電話に困惑していると、諦めたのか電話が切れた。でも、すぐにまた着信音が鳴り響く。仕方なく電話に出ると不機嫌そうな声が聞こえてきた。
『遅い……まだ寝てたのか?』
その偉そうな物言いにカチンときて、低い声で「起きてます」と素っ気なく答えると、私以上に素っ気ない声で『今夜、飯付き合えよ』って命令口調で言われ益々ムッとする。