唇トラップ


ゆっくりと振り向いて、その存在を認識して。

その出で立ちに

願わくば、逃げたいと思った。





サンローランのレオパード柄ブルゾンを、深いインディゴのデニムに合わせて。
屈んだ胸元から、シルバーのアクセサリーを揺らす。

足元は、「お気に入り」のルブタン、白いスパイクスニーカー。
口元はうっすらと微笑んでいるようだけど。その表情は、大きなサングラスに隠されて読み解けない。


キメキメに決め込んだ、スポーツの場には到底不似合いな装いで。

柊介は、立っていた。





『なっ、・・・』

「いい天気になったね。」

『なにっ、なんでっ、』


“何、その格好?”と。
“何で、ここにいるの?”が衝突して。



「あっは。笑
こんな服持ってた?可愛いな。」


パクパクと言葉が宙に浮く。
愛しげに、PUMAのブルゾンに伸びてきた手の平は辛うじて払いのける。


『ちょっ、どっ?!汗』


“ちょっとやめて”と“どうして”が衝突。


「カジュアルもコンサバも・・・十和は本当に何でも似合うな。」


引き続きパニックから抜け出せない私を見下ろしながら、馬耳東風。
恐らく、彼史上一番カジュアルな装いの私を前に、眩しそうにはにかむ彼に。
まともに言葉が出て来ない。





眞「おはようございます、清宮さん。」


結局、他人を宣言していた親友が助け舟に飛び込む。


柊「須藤さん?久しぶりだね。その格好どうし、」

眞「お久しぶりです。もうお会いする事はないと思ってましたけど。」


早くも闘志剥き出しで。


柊介「・・・どうして?君が十和子の親友でいてくれる限り、俺たちが会えなくなる事は無いよ。」


柊介がサラリと躱そうとするのを、


眞「貴方さえ諦めてくれれば、会わずに済むのに。」


つっけんどんな口ぶりで、逃がさない。
流石に、柊介の眉が一瞬寄ったのが見えた。

そっか・・・柊介の浮気事件以降、二人が顔を合わせるのは初めて。




『ちょっ・・・。汗
ストップストップ、もうその話は終わりね。眞子ありがとう。取材、何か協力できる事があったら言ってね。』


目配せで、もう大丈夫とサインするのに。
柊介を睨みつけているせいで目が合わない。仁王立ちして動かない。


『柊介、今日はどうしてここに?』


雰囲気を変えようとして、努めて明るく切り出しても。


柊「・・・牧さんに誘われて助監督に、」

眞「あれー?無理やり頼み込んだって聞きましたけどーー。」


火のついた親友は、怯まない。
おかげで、私は私の感情にさえ反応出来ない。

感情を抑えて、必死で張り詰める場を繋ぐ。


『じょっ・・・?!汗
ふ、ふぅん、そうなんだ!じゃあ、私あんまりルールとか詳しくないからフォローしてね?』

柊「勿論。十和子を守るために生まれてきたんだ。」

眞「じゃあ早く消えてください。十和子のために。」

『まこっ!汗』



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