不倫のルール
「こうして来てくれた事が、一番の誕生日プレゼントです。ありがとうございます!」

二人で、顔を見合わせて笑った。

「それで、繭ちゃん。とりあえず……上がらせてもらってもいい?」

柴田さんが、まだ靴さえも脱いでいない事に、ようやく気付いた。

「っ!ごめんなさい!どうぞ!」

居間に案内して座ってもらう。なんとなく、温かい緑茶が飲みたくなって準備しながら「ここ、よくわかりましたね~」と訊いてみる。

「営業は、下調べが大事だから」

なんて、柴田さんは悪戯っぽく笑った。

夜中だけど、二人でお茶を飲みながら、ゆっくり話した。

私が電話をかけた時、柴田さんはアパートに戻って、コンビニのお弁当を食べ終わったところだったらしい。

「慌てて着替えて出てきた。高速、結構飛ばしたな」

「ごめんなさい。ありがとう!」

私が小さく頭を下げると、その頭を柴田さんがクシャッと撫でた。

「前にも、柴田さんに話した事があるけど……私が三才になったばかりの頃、お父さんが事故で亡くなって。一枚の写真の中のお父さんが、私の中の『お父さん』になったの。目がなくなっちゃうくらい、おもいっきり優しく笑っている。そんな、イメージかな」

柴田さんは、静かに頷きながら聞いてくれている。

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