オオカミくんと子ブタちゃん

本当はいいヤツ?




「なるほどねぇ…そんな事があったんだぁ。」



青空のもと、屋上でお弁当をひろげながら優衣が言った。

私はパパの転勤と再婚、大賀見との同居、そして昨日あった出来事、全てを優衣に話した。

「ーーーで?なんなのこの状況は?」

優衣はフォークをマイク代わりにし、私に近づける。

「なんなんでしょうね?」

私にもわからないデス…

この状況………。

「うわぁ、ハルのお弁当、美味しそうだね。」

「涼介…ウザイ。」

滝沢くんに背を向け、お弁当を隠しながら食べ始める大賀見。

なぜか、お昼休みに屋上で私たち四人はお弁当を食べる事になった。

食生活が乱れている大賀見に、お弁当を作ったのはいいけど、お揃いのお弁当を教室でひろげるわけにはいかず、どうしようかと悩んでいたところ、滝沢くんがやって来て

「屋上で一緒に食べよう。」

と言い出し、半ば強引に連れてこられた私たち…

四人で輪になって屋上でお昼ご飯だなんて…入学式からじゃ想像もできない光景だよね?

「いいよ。小辺田さんのお弁当を分けてもらうから。」

滝沢くんが私の隣に座って、お弁当箱を覗き込んだ。

か、肩がっ

肩がふれてるんですけどっ///

「ほんと、美味しそう。小辺田さんって料理上手なんだね。」

でたっ!

キラキラスマイルっ///

「ありがと…何か食べる?」

「うんっ、じゃあ…卵焼き。」

「じゃぁ、どうぞ。」

私は滝沢くんにお弁当箱を差し出した。

「……………。」

滝沢くんが無言で、じっとお弁当箱を見つめている。

「え?食べないの?」

「だって…僕、お箸もってないから食べれないよね?」

え??

それって………?

「食べさせて。」

と言って、滝沢くんは天使の微笑みを私に向けてきた。

えっ?いや、待って///

滝沢くんって、もしかして甘えん坊キャラ///?

こ、心の準備がーーーーーっ///

トクンッ、トクンッ、トクンッ…

私は緊張しながらお箸で卵焼きを掴み、滝沢くんの口へと運ぼうとした。

「うわっ⁉︎」

「へ?」

私は卵焼きを掴んだまま固まってしまう。

なぜなら…

大賀見が滝沢くんをガッチリとホールドし、無理矢理に滝沢くんの口へ卵焼きをねじ込んでいたから。

「ふ、ふぁるっ!なにふんだよ!」

ハル、何するんだよと言ってるみたいデス…

「お前の行動、マジでキモいんだよっ!」

「なんだよ。ハルが素直に分けてくれないからだろ。」

「お前、パン持ってきてるじゃねーかっ。それ食えよ。」

「僕は、卵焼き腹だったんだよっ。」

な…なんか……

二人共…子供みたい///

爽やかイケメンで落ち着いた雰囲気の滝沢くん…

本当は、スキンシップが多くて甘え上手。

意地悪なイケメンでクール、そして女嫌いな大賀見…

周りの女の人に問題があって警戒心が強いだけ、甘え下手、でも少し可愛いところもある。

私だけ日本に残ってどうなるかと不安だったけど、優衣や滝沢くん、ついでに大賀見…この人達に囲まれる生活も悪くないな。

「なぁに、笑ってんの?葵。」

優衣が私の頬を軽くつまんできた。

自然と頬が緩んでしまっていたみたい。

「高校生活が楽しくなりそうだなぁと思って。」

「ふふ…私も葵たちがどうなっていくのかが超楽しみぃ。」

「え?どうゆう意味??」

「別にぃ〜。ふふふ…。」

優衣がニヤニヤしながら、私の肩をバシバシと叩いている。

「痛いよぉ。ホント何?全然わからないんだけど。」

キャーキャーと私たちが騒いでいると

「楽しそうにしてるところ残念だけど、もうすぐ予鈴がなるよ。そろそろ教室に戻ろっか。」

滝沢くんが大賀見から無事に逃げ出し、私達の近くにしゃがみながら言った。

「えっ?もうそんな時間?」

私達は急いでお弁当箱を片付けた。

大賀見がドアを開け階段を下りていく、その次に優衣、私…

え?

突然、腕を後ろから引っ張られ、ドアが閉められた。

「へ?ど、どうしたの?滝沢くん。」

滝沢くんが右手でドアを閉め、左手で私の腕を掴んでいる。

「あ…えっと…、昨日はあれからハルに意地悪とかされなかった?」

髪をガシガシとしながら、滝沢くんが少し落ち着かない様子で言った。

あ…またパパと同じ仕草だ。

「ふふ…、大丈夫。大賀見も病み上がりだったし、何もされてないよ。
心配してくれて、ありがとう。」

「そっか、良かった。何かあったら遠慮なく言ってね。」

と言ってから滝沢くんが「番号交換しよ。」とポケットからスマホを取り出す。

私達が番号を交換し終わったと同時に、ドアがバンッと乱暴に開いた。

「きゃっ‼︎」

屋上のドアは外開きだったので、私はドアに吹っ飛ばされて…

ストンッと滝沢くんの腕の中に収まってしまった。

「だ、大丈夫⁈」

「だ、大丈夫っ。ごめんねっ滝沢くんっ///」

慌てて滝沢くんから離れようとしたけど…

「あ、あの…滝沢くん?」

腕が私の腰にまわったままで、身動きができないんですけど///

「何してんだよ、子ブタ。サッサとしねぇと授業に遅れんぞ。」

大賀見がぐいっと私の腕を掴み、滝沢くんから引き離した。

「痛いよっ。ってか大賀見がドアを勢いよく開けるからダメなんでしょっ。」

「はいはい、すみませんでした。涼介、行くぞ。」

大賀見はダルそうに言って、再び階段を下りていく。

う"〜っ、ムカつくっ!

「ごめんねっ、滝沢くん。」

大賀見の後に階段を下りようとしている滝沢くんに謝った。

「どうして?僕は得したと思ってるよ。」

またまた、キラキラスマイルでそんなことサラッと言っちゃって、この人はっ///

「じゃ。午後の授業、頑張ろうね。」

と滝沢くんは軽やかに階段を下りていった。

「なになに?葵ってば二人の王子にモテモテじゃん。」

ニシシッと顔に似合わない笑い方で、優衣が冷やかしてくる。

「なに言ってんの。そんなわけ無いじゃん///」

予鈴がなり、私たちは急いで教室へと向かった。

午後の授業は、古文、世界史と続き眠気との戦いだった。

隣の席の大賀見は堂々とうつ伏せになって寝ている。

ほぼ女子全員の視線を集めながら…

こんな状況でよく眠れるなぁ、なんて思いながら窓からグランドの方を見ると、 どっかのクラスの男子がサッカーをしていた。

女子は自習なのか男子のサッカーを応援しているみたい。

キャーキャーと黄色い声が、あちこちで上がっている。

あ…誰かシュートした。

キャーっ‼︎と大歓声が上がる。

チームメイトに囲まれ、女子にキャーキャー言われてる人気者は誰?




…あ、滝沢くんだ。




さ、さすが爽やかイケメンの滝沢くん。

女子だけでなく男子にも人気があるんだ…

あんな人気者の滝沢くんと番号の交換したんだなぁ…私

料理上手とか言われちゃったしっ///

大賀見さえ邪魔しなければ、もうちょっとで卵焼き食べさせられたのになぁ…

ふと大賀見の方へ視線を戻した。

えっ?

大賀見が机に伏せたまこっちを見ていたので、バチッと視線がぶつかった。

「な、なに?」

「…面白くねぇ。」

「は?何が?」

「別に。」

大賀見は意味不明な言葉を残して、再び眠りに入った。

意味が分からないまま午後の授業が終わり、大賀見は速攻で教室を出て行く。

大賀見が出てすぐに、勢いよく茉莉花ちゃんが教室に入ってきた。

茉莉花ちゃんは、キョロキョロと教室を隅々までチェックし大賀見を探しているみたい。

あ…目が合っちゃった。

まさか、こっちには来ないよね?

私は昔から茉莉花ちゃんの事が苦手で、出来れば顔を合わせたくなかった。

合わせたくないのに、大賀見のせいで茉莉花ちゃんとの接点が出来てしまって…

茉莉花ちゃんが、ニコニコとすれ違う男子に可愛く笑いかけながら、こっちへ向かってくる。

どうやら男子には人気があるみたい。

大賀見と滝沢くんを除いては…。

「葵ちゃん、春斗くん知らない?」

茉莉花ちゃんが、首を可愛く傾げながら聞いてきた。

その笑顔、かなり嘘くさいよ…。

「さっき、帰ったみたいだよ。」

「ふ〜ん、そっか。あのさぁ、葵ちゃん…」

茉莉花ちゃんが、ぐっと私に顔を近づけ

「あんまり調子のってると、痛い目にあっちゃうよ。」

と私の耳元で囁き、もう一度あの嘘くさい笑顔を見せてから教室を出て行った。

調子のってると言われても…

のってるつもり全く無いんだけどなぁ。

「なに?またあの女、なにか言ってきたの?」

優衣が早足で私のそばへ来て顔をしかめている。

「ん〜、大したことじゃないよ。帰ろっか、優衣。」

「本当?何かあったら、すぐに言うんだよぉ。」

「うん、ありがとう。」

この時はまだ、茉莉花ちゃんが私を深く傷つける言葉を言うとは思っていなかった…。

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