フィルム
現実になった嘘
その理由はすぐ明らかになる。
次の週のHR。
「えー、みんなに知らせがある。河合康雅は昨日付けで九州の病院に転院した。本人の強い意思で今日までなにも伝えずに来たが、数ヶ月前から話はあったようだ。河合がみんなにありがとうと言っておいてくれと言っていた。それから……」。
一週間前に康雅が弘貴に言ったことは、嘘でも冗談でもなかったのだから。
携帯電話をいじっていた手や、マンガ本をめくっていた手が、1つまた1つと止む。
つかの間の静寂のあと、教室はざわつき始める。
なんで……。
それだけが僕の頭を支配していた。
長い付き合いの康雅が、事実を本当のこととして知らせてくれなかった理由。
冗談だなんて言った理由。
大好きな康雅が、記憶障害にならなきゃいけない理由。
なにもかもわからなかった。
そのうち思考回路は行き止まりにぶつかって、思わずショートしそうになる。
それでも一生懸命目を覚まそうとすると浮かんでくるのは、なぜ九州なのだろうとか、九州へはなにに乗って行ったのだろうとか、昨日って何曜日だったっけとか、本質から逸れたどうしようもない疑問ばかりだった。
そして、「行こう」そう思った。
今すぐにでも、康雅のところへ。
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