初恋フォルティッシモ
でも、スカスカ…ではないと思う。
奥さんだって話を聞いている限りではちゃんと渡辺部長を支えているみたいだし、それにどんなに遅くなってもちゃんとご飯を用意して待ってくれている。
それに何だかんだ仲良しみたいだから、愛はある…と思うけどなぁ。
だからあたしは、渡辺部長に言った。
「…ありがとうございます。話聴いてもらって」
「え、早いな。もういいの?」
「ハイ。あたしのワガママですから」
それに、きっと奥さんも待ってるし。
これ以上引き留めておくわけにはいかない。
そう思いながら、玄関に向かう渡辺部長を見送っていると…その時渡辺部長が言った。
「…あ、そうだ。今日言ってたみたいに、もうこの関係をやめるとかは…」
「言いません。もう少し、付き合ってもらいます。奥さんには悪いですけど」
「うん。その方がいいよ。何かあった時に落ち着くから」
渡辺部長はそう言うと、「じゃあまた明日」とその場を後にする。
ドアを閉める音だけが、妙に響く。
…今度こそ、と思ってたのにな…。
……今頃、三島くんが本当に彼女に別れを告げているとは知らずに、あたしは居間に戻ってソファーに項垂れた。
そろそろちゃんとしなきゃな。
そうは思っていても、自分にとって都合の良い繋がりは……なかなかケセナイ…。