スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
その夜。
ジルさんの家に戻りベッドに入ってからも当然寝付く事は出来なかった。
暗闇の中で目を閉じると昨日とは別人のように冷たい春木さんの視線が何度も蘇り、じわりと涙が滲む。
『君のせいじゃない。』
『あの辺りは元々スリが多発していて、観光客が狙われやすいんだ。』
そうジルさんは励ましてくれたけれど。
「……っ」
きちんと用心していなかった自分の不甲斐なさが悔しくて、涙は頬を流れ続ける。
春木さんが怒るのは当たり前だ。
ずっと大切にしてきた商売道具のカメラだけじゃなく、パリで撮影したフィルム何本分もの写真まで失ってしまったのだから。
せっかく私を信頼して預けてくれたのに。
犯人たちは、あのカメラをどうするつもりだろう?
そう思うと、いてもたってもいられなかった。
ベッドから体を起こし、携帯で時間を確認する。
街へ出る終電にはギリギリ間に合う時間だ。
「……やっぱり行かなきゃ。取り返さなきゃ」
泣いてる場合じゃない。
窓の外に広がる漆黒の闇に向かって、そう独りごちた。