世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「でも、坂瀬くんは二度目に翡翠の絵を見た時と私の写真を見たとき、普通に見えてるみたいだったよ?」


あの時の坂瀬くんの表情は、昨日のことのように思い出せる。
あんなに生き生きとした表情が、演技だったようには思えない。


「あぁ。その時は見えていただろうな、天馬にも」

「はぁ?もう、さっき見えないって言ったばっかりじゃん...」


もう混乱して頭が働かなくなりそうだ。
青柳颯太の言葉に、振り回されている。


「金平糖」

「えっ?」

「お前、アイツが金平糖を食べてんの、見たこと無かったか?」


そう言われて、記憶を巡らせる。


「あ...ある」


教室、夕焼け、鼻歌。
そして、金平糖。

坂瀬くんはあの日、教室でどこか狂気染みた鼻歌を歌いながら、夕日に照らされ、金平糖を口に放り込んだ。


「でも、それが何?」

「あれが、天馬が色を見られるようになる薬みたいなもの」

「...薬?」

「あぁ。あれを食えば、一定時間色を見ることが出来る。つまりは、俺らと同じ景色が見られるようになるんだよ」


現実味のない話だ。
それでも、青柳颯太の表情を見ると、疑うことは出来なかった。


「天馬は思っているんだろうな。金平糖をずっと食べ続けることが出来れば、どれだけいいだろうってな。そうすれば、いつだってお前と同じ景色が見られる」

「じゃあ、食べ続ければいいじゃん。そうすれば、悩むことなんか...」

「...それが、俺がアイツを殴った理由」

「えっ...」


それは、気になっていたことの一つ。

青柳颯太が、一方的に坂瀬くんに暴力を奮い、坂瀬くんは謝り続けてばかりの、あの日のあの時間。

私にとって衝撃的で、青柳颯太のことをどこか真っ直ぐに良いヤツだと思えなかった理由の一つ。
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