世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「じゃあ、俺そろそろ行くね」


そう言って天馬は立ち上がった。


「えっ、もう帰っちゃうの?」

「うん。ちょっと用事があってね。今日はありがとう。一緒に花火を見られて嬉しかったし、一緒に綿菓子食べたりして楽しかった」


ふわりと微笑んで、天馬は片手をあげる。


「じゃあね、バイバイ、日和」


その笑顔は、今までのどんな笑顔より綺麗だった。

花火に照らされて、優しい笑顔がカラフルに彩られる。

そして、鼻歌を歌いながら、彼は私に背を向け、歩いて行った。

あまり好きになれないその鼻歌。
天馬は前にも歌っていた。
気に入っている曲なんだろうか。

そこまで思って、天馬から目を逸らし、花火に目を向ける。

やっぱり、綺麗。

そして、天馬から貰った林檎飴を見つめる。

途端に恥ずかしくなる。
顔がじわじわと熱くなる。

今も、この林檎飴みたいに真っ赤に...。

そこまで思って、気づいた。

天馬はさっき、私の頬をこの林檎飴のように真っ赤だと言った。
色が見えないはずなのに。

そのことは、あることを明らかにしていた。


天馬は、残り一つの金平糖を食べてしまったのだ。
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