世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
美術室に繋がる廊下。
その長い廊下を、私と坂瀬くんが歩く。

私の後ろを歩く坂瀬くんの足音を聞きながら、私は美術室に足を踏み入れた。


「私が好きな絵は、これなの」


翡翠の大きな絵を前に、私はそう言って絵を指差した。

どんな反応が返ってくるだろう。
期待と、緊張。
どちらかと言えば、期待が大きい。
坂瀬くんなら、私の考えに同調してくれる。
そんな気がしていたから。

私は坂瀬くんの表情をちらっと見た。

そして、戸惑った。

坂瀬くんの表情は、本の話をしている時とは別人のように、冷めていた。
まるで絵に何かされたような、軽蔑するような、そんな表情。
しかしそれだけでなく、同時に少し寂しげな表情を浮かべた。

どうしてそんな顔をするの...?

聞きたくても、聞けなかった。

坂瀬くんは私の視線に気づいたようではっと何かに気づいたように、笑みを浮かべて、私の方を見た。


「綺麗だね」


その一言だけ言って、坂瀬くんは絵を眺めた。
表情はさっきと違って穏やかで、でも、寂しげな雰囲気は消えない。


「私ね、この絵の色がすごく綺麗だと思ったの。激しさも温かさも、全てを持ってるような気がして」

「...本当、綺麗」


綺麗。
その一言だけ、坂瀬くんは繰り返す。

やっぱり、興味がないのだろうか。
すごいとか、圧倒されるとか、きっと、そんな気持ちをこの絵に抱いていないんだ。
だから、それ以上何も言えなんだ。


「あんまり興味ない?」


私がそう聞くと、坂瀬くんは焦ったように首を振った。


「いや、違うよ、そうじゃなくて...。...また明日、ここに来る。明日、ちゃんと見るから」


坂瀬くんは言い訳のように繰り返した。

明日、ちゃんと見る。

その言葉の意味が、私には分からなかった。
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