世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
2人

表情

その日から、私と坂瀬くんは自分の気に入った本を見つける度にお互いに紹介し合った。


「読んでみるね」


その言葉がその場の取り繕いでなく、お互い本気で言っていて、実際に読んでくるなんて、今までの他の人との会話ではなかったことだ。

それほどまでに、坂瀬くんは私が紹介した本を気に入ってくれて、私もまた、坂瀬くんが紹介してくれた本に大きく影響されていた。

坂瀬くんと話が合う。
坂瀬くんは、私の好きなものを分かってくれる。
坂瀬くんとなら、私の好きなものを共有できる。

そんな思いがどんどん大きくなり、そして、坂瀬くんにもっと色々なことを教えたいと思った。

その一つが、翡翠の絵。

翡翠の絵もまた、私の心を動かしたものの一つで、坂瀬くんももしかしたら分かってくれるかもしれないと思った。


そして私は、坂瀬くんとの距離が近くなったある日の放課後、切り出してみた。


「坂瀬くん」

「ん?何?」

「坂瀬くんってさ、本以外に興味ある?」

「本以外って...例えば?」

「例えば...絵、とか」


私がそう言うと、坂瀬くんは少し悩むような素振りをした。


「絵、かぁ」

「うん。私、すごく好きな絵があるの。この学校にあるから、見に行かない?」

「...うん、見てみたい」


一瞬。
ほんの一瞬だけ、坂瀬くんの表情が、曇った気がした。
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