世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
その日の帰り道。

私は翡翠とオレンジ色に染まる道を歩いていた。

そして、私の影の横にいた影が、止まった。


「翡翠?」


翡翠は俯いたまま、何も言わない。


「どうしたの?」


その時の翡翠の顔も、このオレンジ色も、二度と忘れないだろう、とその時なぜか直感した。

翡翠が顔を上げる。
その時の顔は、切なげで、苦しげで、見ているこっちが辛くなりそうだった。


「...日和ちゃん、ごめん」


翡翠の声は、夕焼けに吸い込まれていきそうだった。
だから私は、その声を聞き漏らさないようにと翡翠をじっと見つめた。


「私...私ね」


翡翠の声が震えている。

緊張した。

そして、翡翠の口から零れた言葉に、絶句した。


「坂瀬くんが、好きになっちゃったの」


時が止まったようだった。

驚きで、何も考えられなかった。

いや、違う。
私は知っていた。
翡翠が坂瀬くんを見つめていることを。
私が坂瀬くんと話しているとき、少し寂しそうに目を逸らすことを。

気づかないふりをしていた。
四人の距離を崩すのが怖かった。

それほどまでに、四人がいつの間にか当たり前になっていた。

だから、どうすればいいのか分からなくて。
考えるのが、怖くなった。


「日和ちゃん、好きなんだよね、坂瀬くんのこと。私、応援するみたいな言い方してたのに、いつの間にか...」


泣きそうな翡翠を、責めることなんて出来なかった。

翡翠は純粋で、真っ直ぐで。
私に正直に言ってくれて。
翡翠の、そういうところが好き。


「謝らないで。翡翠は、何も悪くないじゃん」


坂瀬くんなんか好きじゃない。
今までならそう言ってしまえた。

でも、今はそんなこと言えなくて。

坂瀬くんに近づく度に、気づいてしまったから。


私も、本気で坂瀬くんが好きだって。
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