世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-

本心

結局家に帰っても、翡翠の言葉しか頭に無かった。

グルグルグルグル、悩んでも仕方がないことなのかもしれないけど、悩んでしまう。

翡翠みたいな子になれたらって何度も思った。
翡翠みたいに素直で可愛くて、純粋で。
そう思っていた翡翠が、坂瀬くんを好きになってしまうなんて。

私に勝ち目なんてない。
それが、分かりきっている。


「おはよう、遊佐さん」

「...あ、おはよう」

「ん?どうかした?悩み事?」


心配そうな顔をする坂瀬くん。
優しくて、気を遣ってくれて。
だからこそ、心配なんてかけたくない。


「何にもないよ」

「そっか、ならよかった」


坂瀬くんはそう言って微笑む。

そして私から目を逸らすと、何かを見つけた顔をして、声を上げた。


「白河さん」


坂瀬くんは翡翠の元に行く。

私のところから翡翠のところに行った坂瀬くんを見て、翡翠は困ったような顔をした。
きっと、私に悪いと思ったんだろう。


「これ、昨日言った小説」

「ありがとう」


それから少し話す二人は、お似合いに見えた。
はじめは戸惑っていた翡翠も、笑っている。

そんな二人を見ていると、バサッと音がして、頭に軽い鈍痛が来た。


「痛っ」

「何保護者みたいな顔してんだ、子どものクセに」


見上げると、そこには丸めたノートを持って呆れた表情をしている青柳颯太がいた。
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