世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「もうそろそろ、戻らなきゃ」


この場にもう、いられない。

私は逃げようとした。
最低なことだとは思った。

でも、このままいると、私は彼を傷つけてしまいそうで、怖かった。

私は彼に背を向け、教室に戻ろうとした。

しかし、彼は私の腕を掴んだ。
そして、自分の元に引き寄せ、抱き締めた。


「えっ...」

「...悪い。今だけ...今だけでいいから、こうさせてくれ」


泣きそうな声。
いや、もう泣いているんじゃないかって思うような声だった。


「天馬のことを考えててもいい。俺のことを軽蔑してくれてもいい。...今だけは、抱き締めさせてくれ」

「...うん」


チャイムが鳴った。
でも、私は青柳颯太に抱き締められたまま動かなかった。

青柳颯太の息が、首筋にかかる。
その息が不安定に震えている。

泣かないで、なんて、無意味な言葉が頭に浮かんだ。

多分今そんなことを言っても、彼を傷つける。

私は彼のことが、少し分かった。
彼に教えてもらったこと、坂瀬くんとの関係。

そして彼は、本当はすごく寂しがり屋だってこと。
それと、底無しに優しいヤツだってこと。
< 90 / 154 >

この作品をシェア

pagetop