サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「どうぞ」

「ありがとう。お邪魔します」


深月くんが部屋へとあがった。

大好きで、なかなか忘れられなかった元彼を部屋にあげるなんて、我ながら大胆すぎると思う。だけど、財布を忘れてカップラーメンで夕飯をすませるという彼を放ってもおけなかったのだ。


「適当に座って待ってて。すぐ作るね」

「俺も手伝おうか?」


レジ袋を受け取り、急いで料理を作ろうと思っていた私を、そう言って引き止めた深月くん。


「え? でも深月くん、料理できないじゃない」


私は、彼の一言にとても驚いた。だって、彼は料理が出来ない……いや、料理を面倒くさがって絶対にしない人だった。

そんな彼の口から、まさかそんな言葉が出てくるなんて……一体、この二年で何があったというのだ。


「あのなあ。料理できないんじゃなくて、しないだけ。面倒だし、料理嫌いだけど……肉じゃがだけ作るようになった」

「肉じゃがだけ?」

「そう。時々無性に食べたくなるから。頑張って味思い出しながら作ってた」


───ドクン。

ひとつ、胸が大きく脈を打った。

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