イレカワリ
返せ
ホテルの前でタクシーを下りたあたしたちは急いで車の後を追いかけた。


車は車庫に入り、歩と見知らぬ男が出て来た所だった。


「歩!!」


純が歩の名前を呼ぶ。


歩はハッとしたように動きを止めてこちらを振り向いた。


男は何事かと歩とあたしたちを交互に見て首を傾げた。


「歩、あたしの体を返して!」


あたしは歩に詰め寄った。


心のどこかで、歩への恋心が押しつぶされていくのがわかる。


歩の事が好きだった自分が、どんどん消えてなくなっていくのがわかる。


それはとてもつらくて切ない事だった。


だけど、自分の身を守るためには捨てないといけない感情もあるのだと、あたしはこの時初めて理解した。


「なんだ、お前ら追いかけてきたのか」


歩は呆れたようにそう言った。
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