イレカワリ
何かいいアイデアでも思いついたのかと思ったけれど、全然違ったみたいだ。


「漫画では衝撃を与えるか、キスをするかのどちらかで戻っていたんだ。あとは時間が経過すれば勝手に戻るとか」


「その辺の設定はよくあるよね。あとは同じものを食べたから入れ替わったとか」


「そう。俺たちに同じものを食べたってことは当てはまらないんだ」


「どうして?」


「あの日、何か特別なものを食べたか?」


そう聞かれてあたしは左右に首を振った。


遅刻寸前だったからロールパン1個と牛乳だけだったんだ。


「俺もそうだ、特別なものは何も食べてない。日常的に食べているもので入れかわっていたら、そこら中の人が入れ替わっていることになるだろ」


それもそうだな。


歩の言っている事は納得できた。


やるべきことは全部やってみて、まだ入れ替わったまま戻らない。


それなら、後はもう待つしかないのだ。


「あたしは、まだ頑張れるよ」


あたしはそう言った。


「いつ、戻れるかわからないのは不安だけれど、入れ替わった相手が歩だから、頑張れる」


あたしは、歩を真っ直ぐ見てそう言った。


歩は驚いたように目を丸くして、そして頬を赤く染めた。


照れている歩の顔もとても可愛くて、あたしまでつられて照れてしまう。


「ありがとう」


歩が小さな声でそう言った言葉は、ちゃんとあたしの耳まで届いていたのだった。
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