イレカワリ
隠された物
それからあたしは医療関係の本に目を通すものの、ロクに頭に入ってこなかった。


心と体が入れ替わったという事例はどこにも載っていないし、半分諦めていたこともある。


だけど、その原因の大半は海の死にあった。


図書館の時計を見るとすでに下校時刻は過ぎていて、あたしはノロノロと帰路へついた。


足は重たく、気分も落ち込んでいる。


歩はまだあたしに何かを隠している。


だけど、歩が素直に何もかもを教えてくれるとは到底思えなかった。


ぼんやりと歩いていると、目の前に小さな可愛い家が見えた。


玄関先に歩のお母さんが出てきていて、心配そうな表情を浮かべている。


「ただいま」


とまどいながら声をかけると「歩、大丈夫なの?」と、聞かれた。


「え?」


「今日学校を早退したって連絡が来たのよ。それなのに歩は帰ってこないし、どこへ行ってたの」


早退したなんて連絡があったのか。


「ちょっと、図書館で調べものをしてたんだ」


「図書館? 授業を抜け出してまで何を調べてたの?」


「ちょっとした事だよ。もう解決したし、大丈夫だから」


あたしは早口でそう言い、母親の横を通り過ぎて家へと入った。
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