トンネルを抜けるまで

 私と先生が退院した後、私達家族と先生は、校長先生や教頭先生に謝りに行った。先生のことを考え、騒ぎを大きくしない様にしようと家族会議が行われた結果だった。先生は皆さんを巻き込むわけにはなんて言ってたけど、巻きこんじゃったのはそもそも私なわけだし……。でもそのお陰で事は大きくならずに済んだ。1週間もすればクラスのどよめきも無くなり、すぐに平凡な生活が始まった。
 授業が終わると、私は先生の元へ向かって何時もの様に作りかけの小説を渡す。
「ふむ。メリーが……」
 だから、声に出して読むクセやめて下さい小山先生! ほらここ、この流れで行くと、どんな言葉回しが良いと思いますか?
「そうだな。メリーは病気がちのお母さんの為に森の中に行きたいが、目の前に狼が見えて進めないんだよな。このもどかしさは、悲しいと言うより悔しいと言う感じじゃないか? だから、この場合は怒りを込めた感じで……」
 先生はあの時言ってくれた様に、私の小説を見て、一緒に考えて指摘してくれる。ちなみに、家に帰ってからはお姉ちゃんに一緒に考えてもらっている。
 なるほど。それで、今なんて言ったんでしたっけ?
「ふんぬ、憤って怒るって書くんだ」
 えっと、ふん? メモをしようにも難しくて分からない。
「ふ・ん・ぬ。貸してみなさい。難しいが、こう書くんだ。山際が勉強を理解出来なくて逆切れする感じを表した言葉だ。どうだ? 分かりやすかっただろう?」
 な、何ですかソレ!! ひっどいサイアク!!! 生徒にそんなこと言って良いんですかーっ!?
「そう、正にその状態だ。良く出来たな」
 頭を撫でられると、顔が赤くなって俯くことしかできなかった。こんなとこ三浦さんに見られたら影で何て言いふらされるか。巡り巡ってまたいじめられたら、またこの人引きづり込んでやろうかな。何て考えたけどやめた。
 進まない時の中で二人きりで話すのも楽しかったけど、今は限りある時間の中で、色んな人と関わって行きたいと思うから。今はまだ、自慢できるような能力なんて一つも無いけど、これからゆっくりと見つけていきたいな。出来るなら、この先生のもとで。

 ……ってことは、思春期の淡い恋心と共に、今は隠しておこう。
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