トンネルを抜けるまで
4組目

 生と死の境に立った時、分岐点となるのが、このトンネルである。薄暗く、不安をあおる景色の先には、外よりも遥かに暗いトンネルがあり、後ろを振り返れば、暗くて先の見えない崖がある。トンネルは漆黒にも近い暗さだが、奥には白く、優しい光が待っているとかいないとか。
 目を開くと、噂通りの景色が広がっていた。ってことは、私死にかけてるんだなぁ。不謹慎ながらも、興味深い。この先が暗いトンネルなのは何となくわかるけど、この崖の先は? 実は真下に白い光とかあるのかしら。崖の先ギリギリまで行き、その場でしゃがんで下を覗き込む。
「落ちたら死ぬよ」
 若い少年の声に顔を上げ、何も知らない様な顔を向ける。お、意外とちっちゃいくて首が楽。
「何て顔してるの」
 少年は淡い紫色の髪が印象的で、西洋人っぽい顔をしている。お人形さんみたいな可愛い顔だ。君、ハーフ?
「ねぇ、落ちてみたい? この下は、地獄の様なハッピーな毎日が待ってるよ」
 君、落ちたことあるの? 楽しかった?
「楽しく無いよ。だから、必死にのぼって来たんじゃないか」
 自力で!? 意外とたくましいのね、ボク。
「ボクじゃない。学者さん、たまに人からウザいって言われない?」
 直接は言われないけど、影でかなり言われてるみたい!!
「最悪じゃん。よく笑顔で言えるね」
 それにしても、私が学者ってよくわかったね。占い師か超能力者だったりする?
「別に。良いけど学者さん、その場所でずっとその体勢でいると、ほんとに落ちるよ」
 でも、落ちても本当に死ぬわけじゃなかったりしない?
「どうだろう。でも、死んでないとしたって、2度と元の生活には戻れないよ。2度とね」
 そうねぇ~地獄の様なハッピーな世界、私気になるなぁ。どうせ一度死んだんだから、自分の好奇心のままに行きたいなぁ。じっと下を見る。
「勝手にして。知らない」
 でもさぁ、やっぱり一人じゃ心細いのよねぇ。顔見知りで、下の世界のこと知りつくしてる人とか、いたりしないかなぁ。
「それじゃあね」
 悪寒を感じてトンネルの方へと向かおうとする少年の手を強引に引っ張った。目を大きく開いて、信じられない様なものを見る表情をする。うん、そのまさかよ。案内役、どうぞよろしくね!! 彼をギュッと抱きしめ、私は崖の下へと飛び降りた。
「……影で悪口言われるの、よくわかる」
 少年は呆れた顔つきで呟いていた。
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