片恋シンデレラ~愛のない結婚は蜜の味~
「ここでいい」

俺達は夏芽の自宅近くの場所に車を停めた。

「悪いな。メシ食いたい気分じゃなくて」

時刻は丁度夕食時だけど、父さんの不倫のコトを考えると食欲が湧かなかった。

「冬也の方こそ、何か家元に言われた?」

父さんの不倫は緑川家の恥。誰にも口外するな!自分の胸に仕舞っておいてくれと爺ちゃんに釘を刺された。

俺だって言いたくない。
知った後で訊くんじゃなかったと後悔した。


俺は助手席に座る夏芽にカラダを向けてゆるりと両手を伸ばして腕の中に引き込んだ。
父さんのコトを考えると耐えがたい苦痛が胸に迫り上がる。

「冬也?」


「少しだけ抱き締めさせてくれ」

俺は戸惑う夏芽を強く抱き締めた。

俺が人の加護のなければ何も出来ない赤子だったから、いけなかったんだと。

父さんから母さんを奪い、そして人の家庭まで。


俺なんて産まれて来なければ良かった、そうすれば、母さんは死ななくて済んだ。俺は疫病神だと思う。










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