冷たい彼の情愛。
「俺たち、磁石でもくっついてんのかな」
「え?」
「俺、他の人にはぶつからないんだけどさ、何でか君にだけぶつかるんだよね。何か力でも働いてるんじゃないかって思うんだけど」
「!」
「……なーんてね」
稲葉くんは冗談を言ったようにくすくすと笑うけど、私は「何か力でも働いている」という彼の言葉がすっと腑に落ちた気がしていた。
大学に入学してから数ヵ月の間、何度も図書館や書庫に来ているけど、決まってぶつかるのは彼だけなのだ。
……そう。彼の言う通り、まるで磁石でもくっついているかのように。
稲葉くんがそんな風に思ってくれるなんて、深い意味がないとわかっていても、すごく嬉しい。
だって、稲葉くんとはほんの数回会話を交わしただけだし、普通に大学生活を送るだけではきっと関わることもなかったはずの人なんだから。
彼に会えたことも、笑顔が見れたことも、掛けてくれた言葉も、他の人にとっては特別じゃないようなことでも嬉しくて。
いつの間にか私の中の彼の存在がこんなにも大きくなっていたんだ。
……もしかして、私、稲葉くんのこと……?
ふわっと浮かんだ予感はまるでアイドルに憧れているようなものなのに、もっと稲葉くんに近付きたいという気持ちが確かにあって。
私は何かに導かれるように、口を開いていた。