神木の下で会いましょう
願うなら、私だってお父さんお母さんって、その人を目の前にして呼んでみたい。

みんなみたいに親がいる時間を過ごしたい。

叶わぬ願いを思っても仕方ないから今まで我慢してきたけど、なんでかな?

もう無理だ。

どんなことされても泣いたことなんて一度もなかったのに、今日に限ってなぜとめどなく流れてしまう。

ほんとになんでかな。

泥だらけの服に丸いシミが広がる。

もういいよね。

お父さんとお母さんの側に行ってもいいかなーー

そんな時だった。

強い風が吹いたのは。

葉が擦れる音と風の音。

長い髪が風に流されて顔を覆う。

次に視界が開けた時、目の前には一人の男の子がいた。

年は同じくらいで、真っ直ぐ見つめられた目は反らすことができない。

いつも向けられる軽蔑を孕んだ瞳とは違う、強い意志と瞳の奥に見え隠れする哀しげな炎。


「なんで泣いているの?」


澄んだ声が響いた。

声の主は目の前にいる男の子。

なんて答えようか。

「虐められました」なんて言ってしまおうか。

見ず知らずの男の子に本当のことを話してみる?

助けてくださいって懇願してみる?

どんな顔するのかな。
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