パドックで会いましょう
これが恋でも、恋じゃなくても
日曜の朝。
僕は仁川(にがわ)駅の改札口を出ても、まだ少し迷っていた。
迷っていたと言っても、道に迷っていたわけじゃない。
本当にこのまま、ねえさんに会いに行っていいのかを、だ。
夕べはねえさんに会いたい衝動が抑えきれなくて、なかなか寝付けなかった。
ベッドの上で何度も寝返りを打った。
もう眠ってしまおうと目を閉じると、ねえさんの笑った顔が次々と浮かんだ。
まるで恋をしているみたいだと思うと、胸がドキドキして、また眠れなくなった。
たった一度会っただけの、何も知らない相手の事を考えてこんな気持ちになるなんて、どうかしてる。
僕はきっと、初めて会った綺麗な人に思いがけず優しくされて、勘違いしているだけなんだ。
もう一度会えば、これは恋なんかじゃない、勘違いだと気付くかな?
ようやく眠りの淵に落ちる頃、薄れていく意識の中で、勘違いでもなんでもいいから、もう一度ねえさんに会いたいと、僕は思った。
ぼんやりとそんな事を考えながら歩いているうちに、競馬場に着いてしまった。
今日もここでレースをやっているようで、先週ほどではないけれど、たくさんの人が訪れている。
どうしようか。
やっぱりこのまま引き返そうか。
ここに来てまだ及び腰になっている。
ああ、そうか。
今日もここに確実にねえさんがいると決まっているわけじゃない。
僕は競馬場に来たんだから、素直にレースを観ればいいんだ。
誰が咎めるわけでもないのに、心の中で自分自身にそんな苦しい言い訳をしながら、場内に足を踏み入れた。