パドックで会いましょう
クルリと振り返ると、ねえさんがいた。

それも、僕の目の前に、だ。

急激に胸が高鳴った。

「あ…ねえさん…。」

僕の頭の中は真っ白だ。

だけど目の前にいるねえさんは、他の人とは違う輝きを放っているように見えた。

「おお、アンチャン!!今日も来たんか!」

ねえさんが僕の肩をポンポンと叩いた。

ねえさんの手が触れた場所から、僕の身体中が熱くなった。

な、な、なんだこれ…?!

僕はおかしくなってしまったのか?

「さては、競馬にハマったな?」

「まぁ…そんなところです…。」


違う、違うよ。

僕は競馬じゃなくて、ねえさんにハマってしまったんだ。

会いたくて会いたくて眠れなくなるくらいに。

ねえさんの笑顔が、頭から離れなくなって。

ねえさんの声が、何度も耳の奥に響いて。

ねえさんの温もりを忘れられなくて。

会うのが怖くて、でも会いたくて。

何も知らないとか、勘違いとか、もうどうでもいい。

これが恋でも、恋じゃなくても。

僕は今、ねえさんに会えて間違いなく嬉しい。

それが今の僕の気持ちのすべてだ。


「あ…会えて、良かったです。」

僕はありったけの勇気を振り絞って、今のこの気持ちを、ほんの少しだけ伝えた。

「ん?そうか、一人やとまだ不安なんやな。じゃあ今日も一緒に行こか。」

「はい…。」

……そういう意味じゃないんだけど。

それでもいい。

ねえさんと一緒にいられるなら、僕はもう仔犬でも園児でも、アンチャンでもなんでもいい。

「おう、アンチャン!!また来たんか!」

「あ…この間はご馳走さまでした…。」


……いいんだ、たとえおじさんが一緒でも。



< 36 / 103 >

この作品をシェア

pagetop